「うちの家族は大丈夫?」相続で起こりやすい誤解と疑い

相続のお手伝いをしていると、「財産の分け方よりも、その前の段階で家族の関係が悪くなってしまった」というご相談をよく耳にします。お金や財産の問題というより、「情報の違い」や「気持ちのすれ違い」から争いが生まれてしまうようです。

たとえば、長男がご両親と同居していたご家庭。長男は通帳や保険証券のありかを知っていて、生活費や介護費用の出入りも把握していました。一方で、遠方に暮らす次男や三男は「どんな財産があるのか」まったく知らず、話し合いの場になって初めて通帳を見せられました。すると「なぜ今まで教えてくれなかったのか」「他に隠していることがあるのでは」と不信感を抱いてしまいます。財産を細かく把握している人と、そうでない人の差がそのまま不公平感につながってしまうのでしょう。

さらに多いのが、同居していた相続人への疑いです。

「介護のために仕方なく引き出した」「光熱費や病院代で使った」そんな正当な理由があっても、離れて暮らしていた相続人から見ると「本当にそうなのか?」と不安に感じてしまいます。一度「使い込んでいるのでは」という疑念が生まれると、何を説明してもなかなか耳を貸してもらえず、話し合いが平行線をたどることも珍しくありません。

実際にあったケースでは、被相続人と同居していた姉が毎月数万円を引き出していたことを、弟が「自分のために使ったのでは」と強く疑いました。姉は「介護用品や病院の送迎のためのガソリン代だった」と説明しましたが、弟は納得せず、関係が冷え切ってしまったのです。後からレシートや領収書を示してようやく誤解が解けましたが、説明を聞いてもらうまで大変だったそうです。

このように、一度疑い出すと、どんな説明も聞き入れてもらえないのが相続の難しいところです。

そんな時に役立つのが、第三者を立てることです。

専門家や中立的な立場の人が同席すると、感情的になりがちな場面でも冷静に話し合いやすくなります。また、財産目録を作成して全員に同じ情報を渡すことで、「知らなかった」「隠しているのでは」といった不安を減らすことができます。前述の姉弟のケースでも、中立的な第三者を交えて財産の全体像を確認し合ったことで、ようやく納得して協議を進めることができました。

相続でもめる原因は、実は財産の多い少ないではなく、「伝わっていないこと」「不安に思う気持ち」が積み重なることにあります。だからこそ、相続を円滑に進めるには、できるだけ早く財産を整理して情報を共有しておくことが大切です。そしてもし不安や疑いが出てきたら、一人で抱え込まず、第三者にサポートをお願いすることをおすすめします。

大切な相続をきっかけに、家族の絆が壊れてしまわないように。相続は「財産を分けること」だけでなく、「家族の気持ちを守ること」でもあるのだと思います。